河川や橋は人々の生活を様々な側面から支える存在である。隅田川は古くから幾つかの街道を分断し、「渡し」や「橋」はそれをつなぐ交通の要衝であった。また江戸時代から地域住民のみならず来訪者にとっても癒しの空間であり、こころの浄化を求めて祈りをささげる地域でもあった。
江戸の町づくりは土地の神々と折り合いをつけながら進められたという。神々の住処(すみか)は人間の住処の周辺、街道沿いや水辺にあるとされた。隅田川は神の住処につながる路であり、多くの神社や寺が隅田川界隈に建立された。参拝者が増えると参道やその周辺には商店や盛り場も充実し、聖と俗が釣り合って共存していった。日本はハレ(晴れ)とケ(褻)の文化だと言われるが、隅田川河畔はさしずめ聖と俗のハレの舞台といってよいだろう。このような地域特性を持つ川の両岸をつなぐ橋はおのずとシンボル的な存在となる。
しかしながら、このシンボルが色を纏ったのは近年のことで、景観色彩計画の考え方がある程度知られるようになってからである。
それ以前の履歴は橋梁ごとに記載したが、現橋のスタートラインは関東大震災の復興事業による架け替えや新設である。この時代の塗料の使用場面では景観の効果を考えることはなかったようで、過去の資料にも「使用した塗料は濃い灰色、薄い灰色、また青みの灰色・・・」との記載が見られるのみである。
1984年に隅田川著名橋景観デザイン検討委員会が、今回取り上げた5つの橋を中心に景観設計の方針について検討した。色彩指針として決定したのは橋梁ごとの色系統と色彩設計コンセプトであった。地域特性や橋の形状の相違を個性として色で表現していくこととし、5橋それぞれに白系、赤系、青系、緑系、黄系をあてた。そして日本の伝統的な色づかいを意識した落ち着いた雰囲気でまとめるという方針を立て、この方針に沿って橋梁各部位の色を選定し、順次塗り替えを行なった。
それから30年以上が経過し各橋梁とも2~3回程度の塗替えを実施しているのだが、橋の個性的表現のみが強調されて白系以外は周辺景観から浮き上がる存在になっていった。特に赤系と黄色系については顕著であった。
その後、2014年隅田川中流部著名橋色彩検討委員会が立ち上がり、翌2015年には五橋の新たな色彩計画がまとまった。30年ぶりの委員会方式による色彩計画で、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを視野に入れた景観整備である。基本理念は「地域の歴史・風土を活かし、橋の品格や個性が感じられる色彩」で、色系統によるシンボル性は継承しつつ景観調和性との両立を目指している。
塗料の質の向上もあり、次回塗替えは概ね20年後になるとのことだが、それまでに東京の色として定着することを願っての推薦である。20年後の評価の際の資料として、後世に伝えることができれば幸いである。
一般財団法人日本色彩研究所 赤木 重文
アーチ(上/以下同)
●マンセル値:N7.5
●NOCS:N7.5
高欄(下/以下同)
●マンセル値:5BG 5/1
●NOCS:5BG-1.5-9
アーチ
●マンセル値:7.5R 2.5/9
●NOCS:7.5R-5.9-11.4
高欄
●マンセル値:10R 2/5
●NOCS:10R-3.7-14.6
アーチ
●マンセル値:2.5PB 3.5/5
●NOCS:2.5PB-5.3-8.8
高欄
●マンセル値:2.5PB 7/1
●NOCS:2.5PB-1.3-4.8
アーチ
●マンセル値:2.5G 4.5/2.5
●NOCS:2.5G-3-9.6
高欄
●マンセル値:2.5G 7.5/0.5
●NOCS:2.5G-0.65-4.68
アーチ
●マンセル値:2.5Y 7/5
●NOCS:2.5Y-4.4-5.2
高欄
●マンセル値:2.5Y 7/1
●NOCS:2.5Y-1-5.8