『東京の色100』076~080

076 ほおずきの朱赤

現在ではすっかり生活から遠ざかってしまったほおずきですが、私が子どもの頃にはよく見かけました。

当時は、手に入るたびに、あかい袋の中にある朱色の丸い実をもんで柔らかくして、中身を取り出してから、口の中で鳴らすことにチャレンジしていました。とはいえ、まともに音を出せた覚えはありませんし、大方は、柔らかくしようともんでいるうちに実をつぶしてしまったものです。

それにしても、夏の日差しの中、濃い緑の葉に囲まれた赤い色の鮮やかさは格別のもので、どうしても心が魅かれてしまいます。ほおずきの赤は、少し黄味の入った鮮やかな朱赤で、緑の葉に囲まれることで、周囲から浮き上がってくるような強い存在感を発揮します。

ほおずきは、この鮮やかな色の存在感により、古くから薬用や鑑賞用として親しまれてきたのでしょう。

残念なことに、ほおずきが、現代の生活シーンから消えかけていることは確かなことです。せめて、浅草のほおずき市が、東京の風物詩としていつまでも残ってくれることを願うばかりです。

夏の風物詩

浅草寺のほおずき市にて


 

日本ファッション協会 山内

マンセル値:8.75R 4.5/12

NOCS8.75R7.55.2



077 アサヒビールの聖火台と炎の金色

多くの観光客で賑わう東京・浅草。

弁柄色などの赤を基調としたシンボリックな構造物からスカイツリーに目を向けると、ひときわ注目を集めるのは金色の雲のようなオブジェ。

屋上の金のオブジェは「フラムドール(flamme d'or)」、フランス語で金の炎を意味する。それを知ると建物の黒とデザインは聖火台をイメージさせる。

見る人によって捉え方が様々であるこのオブジェは、隣に佇むビアジョッキをイメージしたアサヒビール()の創業100周年を記念して、1989年(平成元年)に竣工している。

デザインは世界的に有名なフィリップ・スタルク氏(フランス)、設計は商環境デザイン賞を何度と受賞している建築士の野沢誠氏である。野沢氏は、いくつものパーツを溶接して1つの巨大な船に仕立てる、という造船技術を応用した。

都市計画・景観計画の先進国であるフランスと、日本を先進国に推し進めた企業の共作とも感じる象徴的なオブジェは、


なぜか風景を邪魔することはなく、見事に金の炎を東京の街に灯している。

2020年の東京オリンピックでは、日本という情熱の詰まった聖火台にどのような火を灯すのか、世界中が注目をしている。

 

書道家 田崎成美

書道家 田崎成美

マンセル値 3Y 7.5 / 5

●NOCS3Y4.54



078 武蔵野の湧水

武蔵野台地は、多摩川と荒川に挟まれた扇状地に関東ローム層が重なって出来た地形で黒赤土の下の礫層には豊かな伏流水が流れる。

89万年前の東京湾の海面水位は、現在よりも50m程高い位置にあり扇状地を海水が削って崖状のリアス式海岸線を描いた。この跡を50m崖線と呼び武蔵野3大池と言われる井の頭池、善福寺池、三宝寺池と南沢湧水群(東久留米市)が、この崖線上に位置する。

3大池の湧水は、昭和以降の工業用地下水の汲み上げと道路の舗装化等の影響で現在は地下水のポンプ汲み上げで水量を満たすが、南沢湧水群では6ヶ所の水源から今でも豊かな湧き水を確認出来る。

江戸時代は、上水を通って人々の喉を潤し、豊かな近郊農産物の生産を支えた武蔵野の湧水。今は、緑豊かな水辺を提供することで都市生活者の疲れた心を潤す。

さて、透明な水を測色することは不可能だが古来多くの絵画で水が色を以て描かれおり、我々の心象風景の中で水は色を持つ。武蔵野の湧水は、淡い水色か?あるいは深い藍色か?

否、雑木林や竹林の奥から湧き出す水面には木々の影が被り


空の色は映さず水底の礫層と粘土層の交じり合う色を透かす。

 

CMFデザイナー 安岡 義彦

マンセル値:10YR 4/1         5Y 2/1

NOCS10YR0.9511.8

     5Y116



079 中野サンプラザ

JR中野駅の南口を出ると、ひときわ大きく目立つ建物が中野サンプラザである。クールな印象を持つ白い外壁と多角形で構成されるユニークな外観が、中野のランドマークとして永く親しまれてきた。

中野サンプラザは、1973年に雇用保険法に基づく勤労者福祉施設として開業した。新宿副都心に高層ビルが立ち並び始めた時期とほぼ同時代である。オープン以来、音楽ホールが有名で全国的な知名度がある。かつては毎週のように歌番組等にも登場し、ドーム球場が建設される以前は日本有数のコンサートホールでもあった。最近では程よい広さの会場として、グループアイドルの聖地として人気があり、中野ブロードウェイと共にサブカルチャーの発信基地として名高い。

その中野サンプラザが老朽化と駅前再開発を理由に解体が決


まり、新たに1万人規模のアリーナが併設された多目的複合施設の建設計画が発表されたのである。中野サンプラザの解体は2022年に始まり、2025年を目処に新施設が完成するというのである。

2020年、東京オリンピックを境に東京は大きく変わるといわれるが、この中野駅周辺も駅前再開発と絡んで大きく変貌することなりそうだ。哀愁を感じる一方、より良い文化都市としての未来を願わずにはいられない。

新たな中野の色はどんな色になるのであろうか。

 

㈱中川ケミカル 中川 隆之

マンセル値:3.4Y 8.90.4

NOCS  :2.5Y0.53



080 歌舞伎座定式幕のトリコロール

歌舞伎といえば、京都での出雲の阿国に始まるといわれ、以来、江戸や上方の娯楽の中心として庶民文化を牽引してきました。時には、情報発信の場として、時事ネタを扱ったり、人気歌舞伎役者にちなんだ流行色や柄をはやらせたりと、江戸時代の庶民文化と大変深い関係がありました。

皆さんは、「歌舞伎をイメージさせる色は?」と聞かれたら、画像の縞柄の3色を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?

この3色(トリコロール)は、重厚で和風な趣を感じさせる配色ですが、本来、江戸森田座の引幕に使われた「黒」「柿色」「萌黄色」の3色の縞を、現在の歌舞伎座や京都の南座が使用したといわれます。

この和風のトリコロールは、歌舞伎関連のお土産などのパッケージに使われているだけでなく、皆さんが日常眼にするお菓子の「歌舞伎揚」の包装でもお目にかかれます。また、永谷園の「お茶漬け」にも使われていて、日本のお茶漬けとしてのイメージをしっかり演出しています。


 

日本ファッション協会  山内 誠

JIS慣用色名から

マンセル値

 黒   N1.5

 柿色  10R 5.512

 萌黄色 5.5G 35

NOCS

 黒   N1.5

 柿色  10R7.63

 萌黄色 5.5G5.411.6