『東京の色100』021~025

021 神田の家の黒漆喰

「神田の家」の入口の立て札には「遠藤家旧店舗・住宅母屋は、江戸時代以来材木商を営んできた遠藤家(屋号「井政」)の店舗兼住宅として昭和2年(1927に鎌倉河岸(現内神田一丁目)に建てられました。その後、昭和48年(1973に都心の開発に伴う建替えの際、旧家屋の解体を惜しみ府中市へ移築されましたが、文化財指定に伴い、ここ宮本公園に移築されました。」との解説がある。玄関脇には墨文字で大きく「井政」と書かれた看板が掲げられており、壁は渋い黒漆喰で塗られている。黒い壁のマンセル値は10YR 30.2で、真っ黒ではなく黒に近い灰色であり、わずかに


暖かみを持っている。

 

関東圏では川越の蔵造りの黒い建築群が並ぶまち並みは有名だが、東京でも戦前までは黒漆喰や黒塀はよく見られた色だろう。低層の黒い住宅が並ぶ景色は粋で魅力的だったと思う。神田の家に近い湯島聖堂も黒だが、緑の樹木の中にある建物は、黒い壁と緑青銅版の屋根が調和して美しい。黒は素材感や周辺にある色との関係に配慮しなければ、小粋な色にはならない。水路があり、樹木に囲まれた黒い粋なまち並みが、神田の何処かで復活してほしいと思う。

 

 

色彩計画家/クリマ代表 吉田愼悟

 

マンセル値:10YR 30.2

 

NOCS10YR0.2514

 



022 現代に残る粋な黒塗り

今も芸者さんのいる花街と呼ばれる場所である赤坂でも神楽坂の料亭の中に黒塀を廻らした店があり、何となく近寄りがたさと秘密めいた感じを与えます。そうした黒塀の私のイメージ形成に影を投げるものに「お富さん」という歌謡曲があります。

この歌は春日八郎によって歌われた昭和29(1953)のヒット曲です。私が「黒塀」と言うと反射的に「粋な」という言葉が出てくるのは、この歌のお陰です。この歌の歌詞を少し追ってみると「(粋な黒塀) 見越しの松に 仇な姿の 洗い髪 死んだ筈だよ お富さん」と続きます。粋な黒塀の上から覗く青々とした松の住まいにいるのは、洗い髪を無造作に束ねたお富さん。そう、これは歌舞伎の「与話情浮名横櫛」の一場面「源氏店」です。「粋(いき)」は江戸時代に生まれた言葉で、気質・態度・身なりなどがさっぱりと垢抜けていて、しかも色気があることを指します。「粋な黒塀」は塀の造作とともに、黒塗りにしている趣味の良さを表しています。一言で黒といっても漆黒、鉄黒、墨、消炭色と日本の古くからの色名に残さている黒色を粋と感じ、その美意識の中に生かしてきた江戸から続く東京の町に点々と黒色が残され、新たに生まれているように思います。

根津の「はん亭」は明治時代に建てられ、関東大震災にも耐

神楽坂の黒塀(上)と根津の「はん亭」(下)


えた総欅づくりの3階建ての木造建築で、弁柄まじりの黒塗りで仕上げられています。現代に生きる「粋な串揚屋」もなかなかいいものです。

 

渋谷ファッション&アート専門学校 副校長 丸亀敏邦

<黒塀>

 

マンセル値:N2.5

 

NOCSN2.5

<はん亭>

 

マンセル値:5R 2.51

 

●NOCSR114.6

 

 



023 ブラックスーツ

もともと喪やフォーマルの色であったブラックが、お洒落の定番色となった背景には、日本人デザイナーの活躍が挙げられる。

1980年代にパリ・プレタポルテにて、川久保玲や山本耀司によって発表されたブラックを用いたコレクションは、世界中にセンセーションを巻き起こした。日本でもブラックがブームとなり、ファッションから始まって、インテリアや家電にまで流行が及んだ。その後は、様々な意味合いを持ちながら、何度も流行している。

ブラックには、ダイナミック、モダン、シャープ、荘厳などのイメージがある。プロフェッショナルなイメージもあり、東京都内の百貨店の店員のスーツにも用いられている。


また、このブラックはリクルートスーツの色として定着し、集団でブラックをまとう姿が見られる。

 

 

カラーコーディネーター 大倉素子

マンセル値:N1.5

 

NOCSN1.5



024 柳屋の鯛焼きの卵色

鯛焼きは、明治時代から食べられている庶民のお菓子。

東京下町、人形町の甘酒横町にある、鯛焼き屋「高級鯛焼き本舗 柳屋」。

創業は大正五年(1916年)。もう100年近く愛されてきた、人形町でも、いや東京でも指折りの老舗。いつも行列ができている人気の店だ。

「柳屋の鯛焼き」は、やや色白である。やわらかく淡い茶色。あえていうなら「卵色」が近い。そして、一匹づつ焼きあげるので、天然物と呼ばれているらしい。皮は割と薄めで


少しもっちっとした感じ、香ばしく、ぴっちりと焼きあがっている。中の餡は、あっさりと。

もちろん、店頭で職人さんが焼いている。一匹ずつの鋳型に、皮のタネを流しいれ、餡を載せ、タネをかけてくるりと回転。小気味良い独特のリズムで、次から次へと焼かれている。そして「卵色」に焼きあがった鯛焼きがポン!と型から飛び出してショーケースの網の上に着地する。

 

夜店などで見る、数匹分を同じ型で焼くものは養殖物(笑)。皮が厚めでふわふわ感があり、焼き色もやや濃いものが多い。しかし、ここ「柳屋の鯛焼き」養殖物とは一線を画した、老舗の、姿も美しく凛々しい鯛焼きなのである。

 

子供のころ、近所に住んでいたので、よく父が焼き立てを買ってきてくれた。包み紙をあけ、経木(木を薄く削ったもの)を開けるとあたたかい、しっとりした「鯛焼き」があらわれる。あの色、あの匂い。つい笑顔になる。そして、悩む。頭から食べようか、いや、しっぽから・・・。

 

みなさんはどうだろうか?

 

今日もあの、素朴でやさしい「卵色」の「柳屋の鯛焼き」をハフハフ食べながら癒されている人たちの笑顔を思うと、気持ちがほっこりする。

 

 

ライフカラーアドバイザー 谷口 明美

マンセル値:2.5Y 8.52.5

 

NOCS2.5Y2.42.2

 



025 "Kawaii"ファッションの恋するpink

1999年にピンクのトヨタVITZが登場して以来、コンパクトカーにおけるPINKは日本の市場に定番化しました。また、2000年代の後半には、デジカメ、携帯、ノートパソコンの分野でPINKは売れ筋色の一つになりました。

このように日本人のPINKに対する高い嗜好は、世界の中でも異例の傾向となっています。それも日本のPINKは、欧米のROSE系とは異なり、桜の花を想像させるような淡いPINKが特徴です。このPINKへの嗜好は、ファッション分野でも、女性にとどまらず、20082009年頃には「PINK男子」の大量発生が観察されました。

 

COOL JAPANとして世界の注目を集める「ロリータ」や「フェアリー」といった“kawaii”ファッションでも、PINKを中心としたパステルカラーであるkawaii COLORが中心になっていて、原宿などで観光客の目を引きつけています。

 

2009年に日本ファッション協会/日本流行色協会/日本色彩研究所が共同で行った「恋するPINKと勝負PINKの調査(男女計338名)」では、恋するPINKとして、明るくて澄んだ、少し紫よりの5RP 78の色が選ばれています。

 

2010年の女子大学生に行った同様の調査では、「ピンクが好き」と答えた回答は93.2%という高すぎるほどの嗜好を示していて、現代におけるPINKの存在の大きさに驚かされます。


一般財団法人日本ファッション協会 山内 誠

マンセル値:5RP 78

 

NOCS5RP5.60