『東京の色100』071~075

071 銀座煉瓦亭の千切りキャベツの淡黄緑色

日本で初めて「ポークカツレツ」を提供したお店が、銀座の「煉瓦亭」です。

当時の日本人の味覚に沿うように、1899年(明治28年)頃に、フランス料理をアレンジして生み出されたのが「ポークカツレツ」。この「ポークカツ」は、その後、「とんかつ」と名前を変えて、日本の食生活になくてはならない料理として定着しています。「なくてはならないもの」といえば、とんかつに添えられる「千切りキャベツ」もその一つ。揚げ物にぴったりのさっぱり感で、抜群の相性を誇りますが、

この千切りキャベツの発明も、実は、煉瓦亭なのだそうです。

暖かい料理には温野菜という西洋料理のセオリーを破ったのは、日露戦争の兵役での人手不足。レストランの人手が足りなくなった結果、手の込んだ温野菜に代えて、生のキャベツを提供したといわれます。

それまでの日本には生野菜を食べる習慣はありませんでしたが、このとんかつと生キャベツの組み合わせは、そのあまりの美味しさに、それまでの食習慣を覆して日本中に広がりました。現在、キャベツは世界中で食されていますが、千切りキャベツを食べる国は日本ぐらいだとか。


それにしても、この、とんかつと千切りキャベツとウースターソースが創り出す味のハーモニーは格別のもので、この美味しさを生み出してくれた煉瓦亭に、思わず感謝をしたくなってしまいます。

ちなみに刻まれたキャベツの色は5GY 92周辺の色で、淡い黄緑がさわやかでフレッシュな印象を与えてくれますし、ポークカツを際立たせる明度コントラストもあって、優れた背景色にもなっています。

 

日本ファッション協会  山内 誠

マンセル値:5GY 92

NOCS5GY2.40.4



072 上野 西郷隆盛像の緑青

上野駅はかつて東京の「北の玄関口」と言われた。その所以は高度経済成長期の集団就職で、東北・上信越から中学・高校を卒業したばかりの「金の卵」を迎え入れた終着駅であっただろう。上野駅と言えば、夜行列車に乗ってくたくたに疲れながらも、東京生活への希望と不安をかかえて上京する終着駅というイメージが強かった。

こうしたイメージは平成も終わろうとしている今、平成30年では「今は昔」。1985(昭和60)の東北新幹線大宮-上野間延伸開業で便利になった上野駅は次第に「北の玄関口」といった郷愁感が弱まり、1991(平成3)年に上野-東京間が延伸開業することで、上野駅は終着駅ではなく「通過駅」になった。2015年(平成27年)には、上野東京ラインが開通し、上野駅止まりだった宇都宮線・高崎線・常磐線が東海道


線と相互直通運転を開始。このことで上野駅は「北の玄関口」としての役割を終えたと言ってよい。

このように上野の独自性が失われている中、「今も昔も」の上野と言えば、西郷隆盛像である。明治30年に竣工したこの銅像は、浴衣姿で犬を連れている散歩姿。今(平成30年)放送されている大河ドラマ「西郷(せご)どん」のオープニングに、明治31年(1898)の除幕式で、幕が引かれた途端に未亡人糸子が「うちの主人はこんな人ではなかった」と言った逸話が使われているように、確かに幕末の偉人らしからぬ銅像である。その風貌の訳は波乱の人生の複雑さが背景にあるようだが、ここでは割愛する。

ただ、西郷が明治維新の立役者であることも知らなかった下町の子ども(私のことですが)にとって、浴衣姿の西郷隆盛像は最も親しみのある銅像であり、上野のシンボルでもある。現在のその色は、100年以上という歳月によって作り出された緑青色であり、1868年(慶応4)に、「江戸」が「東京」に改称された、ほぼその時期から、変貌し続ける東京に連れ添っている色とも言える。

 

DICカラーデザイン 川村雅徳

マンセル値:9.6G 6.1/1.8

NOCS9.6G2.46.2



073 祭半纏の縹(はなだ)色

祭半纏のルーツは火消しや職人の衣装だという。職人の衣装はフォーマルウェアでもある。婚礼の席でも葬式でも、火消しや職人は半纏を着ていく。扇子と煙草入れも、半纏の着こなしには欠かせない。

当然、色は藍染めが中心だ。現在は、顔料プリントで、どんな色でも染められるが、やはり伝統を考えるなら、藍色が正当だろう。

関東では半纏、関西では法被(ハッピ)と呼ぶことが多いが、元々は別物だった。半纏は火消しや職人の衣装、法被は下級武士が羽織の代わりに着たものだという。

そう考えると、威勢よく御輿を担ぐ江戸の祭りの衣装は半纏と呼びたい。

半纏は身分証明書でもある。御輿を担ぐには各町会の半纏を着るのがルールだ。半纏は町会のプライドであり、仲間の印だ。借りた半纏が色褪せていても文句を言ったら罰があた


る。藍の色が褪せた半纏には、歴代の先輩達の汗が染み込んでいる。

 

 シナジープランニング 坂口昌章

JIS慣用色名より「縹色」

マンセル値:3PB 47.5

NOCS  :3PB7.15.0



074 東京の海

東京湾の海水は、近くに寄って眺めると、緑がかって濁って見えて透明感が分かりにくいが、遠目からは青く見えるようになってきた。これは様々な水質改善の努力により徐々に綺麗になってきた成果である。

昭和40年代頃は、生活排水などをそのまま流し、ゴミが溢れて汚かったそうである。クラゲも大量に繁殖しており、海の表面を覆うように浮かび上がっている光景がよく見かけられたものだった。


しかし、現在では、多くの人々に海を綺麗にしようという意識が高まり、以前よりも水が綺麗になってきて、少しずつ魚が戻って来ているそうである。

写真は東京港竹芝桟橋から見える景色だ。

ここからは、東京スカイツリーや、FCGビルなども眺める事が出来る。東京港は日本五大港のうちの一つで、コンテナが多く見受けられる。また、日本三大旅客港の一つである。

竹芝桟橋からは、伊豆諸島や、世界遺産としても登録された小笠原諸島への船が行き来している。

 

斉藤美佳

陽光が踊る夏の海の遠景色

マンセル値 5B 5.53

NOCS色票 5B3.75.8



75 玉ひでの親子丼

今や全国でお馴染みの親子丼は、人形町にある鳥料理の名店「玉ひで」で生まれた。店の看板料理である軍鶏鍋の割下を、卵でとじ、ご飯にのせて出したことが親子丼の始まりだという。

割下の味はしっかりと染みていて、普段食べ慣れている親子丼よりも甘く、濃い味がする。砂糖を多く使っているのかと思いきや、味付けには醤油とみりんしか使っていないという。なんでも、関東の醤油の風味と、みりんの芳香を生かして、香りのある具材を入れないのが江戸前の味わいだそうだ。

割下へのこだわりは味だけでなく色にもあり、毎回同じ色になるよう、微妙な調整を行っているという。そうしたこだわりの詰まった割下と卵が絶妙に混ざった色は、10YR6.0/10である。

また、お店の心配りは食器の色にも表れている。匙が朱塗りなのは、お客さんが食べるときに口紅がつくことを気にしないように、という心遣いからだという。


色でもおもてなししてもらえているとわかると、より一層味わえる気がする。

 

カラープランニングセンター 池田麻美

マンセル値 10YR6.0/10

●NOCS10YR7.56.6