『東京の色100』096~099

096 ジャパンタクシーの深藍(こいあい)

CBNの企画「東京の色100」は、2020年東京オリンピック開催決定を機に始まった。こうした時代様相の反映として、ジャパンタクシーの深藍(こいあい)は欠かすことのできない色だ。競争社会において、同業他社との差別化はビジネスの基本だ。タクシー業界にしてみれば自社性をアピールできる車体のカラーリングは、差別化戦略の一つであろう。そうした背景もあって、日本のタクシー乗り場は雑多な色が集積する場であった。自社対他社という競争軸で考えれば致し方ないことでもある。

しかしこの競争軸を、日本対世界にすることで別の展開を生み出せる。東京オリンピックを機に、海外からの来訪者、国内に住むすべての人々に、日本の美意識の一端をアピールす


ること。そう切り替えることで、ジャパンタクシーの深藍は、タクシー業界が横串でつながって取り組める日本の色彩景観づくり活動になれたのであろう。

一つのプロダクトが景観づくりにも貢献する例は希で、それを評価され(一社)日本流行色協会が主催するオートカラーアウォード2018では特別賞を受賞している。

明治時代に来日したイギリスの化学者アトキンソンや小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は、着物やのれんなど、日本を彩った藍色を見て「ジャパンブルー」と称したというが、果たして、ジャパンタクシーの深藍も「ジャパンブルー」として記憶されるのだろうか。少なくともそのフォーマルな色の印象は、真摯さ、思慮深さ、細やかな気遣い等といった日本人気質と共に、人々の記憶の中に生涯残っていくことになるに違いない。

 

DICカラーデザイン㈱ 川村雅徳

マンセル値:8.0PB 1.90.5

●NOCS:8PB0.516.2



097 人形町美奈福(みなふく)の関東炊きおでん

こげ茶色の出汁の中に、白い卵にはんぺんに、くるりと巻いた赤い蛸。狐色のさつま揚げと、人によっては真っ黒と表現する大根。たくさんの丸と三角、綺麗に結われた白滝も、四角いお鍋の中にぷかぷか。親しみ易い姿かたちで見るからに美味しそう。夏というのに客足が耐えない。
毎日営業が終わると出汁から具を出し、三重の網で濾してから、沸騰させる。お店が休みの日にも欠かさずに、休みの後には営業の前にももう一度。


大根は味が出るので、継ぎ足し用の出汁で別に煮ている。その継ぎ足し用の出汁の色は、お店の四角い鍋のものより随分薄い(明るい)。おかみさん曰く、ここまでは、家庭の色。これを継ぎ足し継ぎ足し、おでん鍋の中で出汁は色みを深くしていく。そうやって出来た、これがお店の色。測ってみると、9YR5.56。お店の65年の歴史の中で、愛情かけて次第に深くなってきた色と味。美味しくって親しみやすくて当然ですね。
ところで、関東人が醤油を使って料理をすると、何でも茶色くなってしまう。それはもちろん、濃い口醤油を使うからだけれども、茶色といえどその中にも色々な素材の色。華やかではないかもしれないけれど、江戸の昔から、四十八茶百鼠と言うくらいだし、それも粋でいいではないの。

大沢光太郎建築塗装株式会社 大澤裕美

マンセル値:9YR 5.56
 
測定方法:白い皿に10㎜の 深さで出汁を入れて、上部 より観察したときのマンセ ル想定値。
●NOCS
9YR57.8



098 クリームソーダの鮮やかな緑

アイスクリームソーダが日本人の生活に出現したのは、1902年(明治35年)。日本初のソーダ・ファウンテンとして開業した資生堂パーラー銀座本店のおかげといわれます。
「パーラー」や「ソーダ・ファウンテン」といった横文字の言葉だけでも、当時の人々が、そのハイカラさに心をときめかしたはずですし、アイスクリームが浮いているソーダ水の清涼感を目にし、味わえば、まさに先進西欧のエキスそのものを口にする想いだったのでしょうから、当時の話題になったのは当然のことです。
この日本初のクリームソーダの味はメロンではなかった?ようなのですが、私がイメージするクリームソーダは、今に至っても、あの鮮やかな緑のメロン味に他なりません。
明治から時は移っても、子ども心にとっては、澄んだ緑色のソーダ水には、何か特別な夢が詰まっているように感じられるでしょうし、はるか昔に子どもだった心には、若き自分の姿が映って見えるかもしれません。
色としての緑からは、「希望」や「新鮮」といった言葉が連想されますが、これらの連想語を眺めると、当時の人たちが緑色のソーダ水に接して抱いたであろう想いが、素直に理解できる気がします。

日本ファッション協会 山内 誠

メロンシロップの分光透過率

測定方法:試料(明治屋マイシロップ メロン)は、説明文に従ってシロップ1に対して水4の割合で希釈したもの。測定は、試料を10mm透過セルにて分光透過率を測定。90%白色面に10mm厚の資料を置き、上部より観察する状

                況時のマンセル相当値。


マンセル値:9.4GY 8.2/15.5

●NOCS9.4GY10.8e3.0



099 北斎ブルー

建築家・姉島和世の設計で2016年に開館した「すみだ北斎美術館」は、メタリックな素材を使い、「富嶽三十六景」等を描いた北斎のイメージとは似つかわしくないモダンな印象の外観を持っている。あまり大きくはない美術館だが、様々な方向からアプローチできる複雑さを持つ動線も面白い。

江戸の浮世絵師、葛飾北斎は本所割下水で生まれ、その生涯のほとんどを本所界隈(現在の墨田区の一角)で暮らしたとされている。墨田区はこの北斎の画業を広く世界に知らせるために美術館を建設した。財政難のために一時この計画は凍結されたこともあるが、開館以来、このメタリックで斬新な建築と、世界的に有名な絵師・葛飾北斎の版画を見るために多くの人々がこの美術館を訪れ、東京の新名所となっている。

この北斎の浮世絵に使われる色彩で、特に「ベロ藍」は有名である。ベロ藍はベルリンでその製法が発見されたとされ、ベルリンブルーとも呼ばれている。ベロ藍はこのベルリンブルーがなまったものらしい。このベロ藍と呼ばれる色はマンセル値では5PB 3/4あたりの色で、現在印刷で使われる青と比べると、彩度は低く落着いた色調であるが、当時は発色がよく、退色の少ない画期的な色材だったのであろう。北斎は「富嶽三十六景」でこのベロ藍を巧みに使いこなし、空や海


の波の表現にぼかしの効果を使った色使いは印象的である。

 

色彩計画家/クリマ代表 吉田愼悟

マンセル値:5PB 34

●NOCS5PB4.411