春の風物詩と言えば花見。「花見」と言えば桜の花見を指すほど、桜は日本人にとっては特別な花である。3月下旬になると「今年は昨年よりも開花が遅い。」とか「今週末だとまだ2分咲きかなぁ。」などと天気予報と桜の開花予想を見比べながら、満開の桜を見逃したくないからか、そわそわ心が落ち着かなくなる。桜と一口に言ってもシダレザクラ、ヤマザクラなど様々な種類があり、開花時期が異なるため春はじっくり花見を楽しむことができる。
東京の桜の名所のひとつ千鳥ヶ淵緑道では、ソメイヨシノや大島桜など約260本の桜が見られる。満開の桜も良いが、散り際に風に吹かれて花びらが舞う中を、歩くのもまた風流である。やや残念なのは、桜の花びらよりも鮮やかで目立つお堀に浮かぶボートの色である。「桜色」と聞くと鮮やかなピンク色を想像するが、千鳥ヶ淵緑道沿いに見られるソメイヨシノの花びらは、付け根の部分はかなり鮮やかなピンク色であるものの、基本的にはマンセル値で言うと彩度1程度の低彩度である。白と思ってしまうほどのこのほのかなピンク色が、繊細なものを好む日本人の心に響くのだろう。
カラープランニングコーポレーション クリマ 依田 彩
●マンセル値:10RP 8.5/1
●NOCS:10RP-1-1
隅田公園
江戸時代、八代将軍徳川吉宗が桜を植えた桜の名所。隅田川の両岸に桜並木が続き、東京スカイツリーを背景に花見が楽しめる人気のスポット。隅田川の屋形船に乗っての花見や浅草寺の観光も楽しみの一つ。
飛鳥山公園
八代将軍徳川吉宗が享保の改革を進めるにあたって、江戸っ子たちの行楽の地を創ろうと桜を植えた、古くからの名所。起伏に富んだ地形を生かした桜の植生が訪れた人々の風情を誘う。
青山霊園
港区南青山にある霊園なので、静かに桜を楽しむならこちら。敷地全体に植えられたソメイヨシノがそこかしこに見どころを提供する。桜越しに見える高層ビルとのコントラストも一興。
目黒川沿いの桜
4kmに近い桜の並木が続く人気のスポットで、多くの花見客が川沿いの絶景を楽しむ。若い人の集まるカフェやレストラン、個性的なショップが立ち並んで、桜を愛でながらショッピングやグルメも楽しめる。
豊島区染井吉野の桜
この地域は江戸時代“染井”と呼ばれた造園師や植木職人の住む村で、この地で育成された“染井吉野(ソメイヨシノ)”は、明治以降、日本全域に植えられ、日本の桜の代表といわれる。現在、東京の桜の名所は、ほとんどがこのソメイヨシノになっている。
日本橋は、東京都中央区にある日本で最も有名な橋。橋の中央には道路原標があって江戸時代より、日本の交通道路網の始点となっている。現在の日本橋は、明治44年に架設。花崗岩(御影石)を材料にした石造二連アーチの道路橋である。それまでは木製の橋であったが、明治の市区改正計画により石造りで架設されることとなった。アーチ構造の欧風デザインに獅子や麒麟、松と榎等の東洋的要素を取り入れたデザインは近代日本を象徴する美しい橋である。近代化に沸く、当時の日本人にはさぞ新鮮に映ったことであろう。花崗岩(御影石)の白く明るい色調はどこか軽やかな印象がある。
それだけに真上の首都高速道路が残念。首都高が移転して陽光に照らされる美しい日本橋が見てみたい。花崗岩の色は石英と長石といった主成分に加え、どのような有色鉱物が混ざるかで決まる。主成分が勝つと白っぽくなる。中部地方以西の花崗岩は淡紅色(ピンク色)を呈している。
株式会社中川ケミカル 中川 隆之
●マンセル値:1Y 6/1
●NOCS:1Y-1-7.8
天ぷら、寿司、うなぎ、そば。
東京の「うまいもの」を代表するこれらの料理には、一貫して濃口醤油による味付けがある。
今やどこでも手軽に手に入るようになったが、江戸の初期までは米の3倍もするほど高価なものだった。江戸の武士は、昔から高貴の象徴とされる紫の色になぞらえ、醤油を「むらさき」と呼んだ、という話もある。
江戸向けに濃口醤油が作られるようになると、その人気は瞬く間に広がり、明治維新の頃には日本を代表する醤油となっ
た。現在は国内外共に8割のシェアを占め、「醤油」と言えば濃口醤油を指すほどである。
2020年にオリンピックが行われる際は、この味に魅了される外国人も更に増えるだろう。数世紀に渡り、流行に敏感なこの都の人の心を掴んできた濃口醤油は、日本へ、そして世界へとこれからも広がっていく。
株式会社カラープランニングセンター 池田麻美
●マンセル値:10R 2/1.5
●NOCS:10R-1.2-15.6
田園調布は全国にも名が知られた東京を代表する高級住宅街である。この一帯のシンボルが、田園調布の駅舎である。田園調布は実業家の故渋沢栄一氏らによって開発に至り、大正12年から宅地分譲が始まった。駅舎は翌年の目黒蒲田電鉄線の駅として開業した当時に建てられたものである。木造モルタル塗り2階建て、ドイツの民家風のデザインが特徴的である。1990年にホームの地下化工事に伴い一度解体されたが、地域住民の強い要望を受け、2000年に同じ場所に当時の駅舎が復元された。現在の駅舎は「関東の駅百選」にも認定され、地域の多くの人々に愛される存在である。
扇状に広がる銀杏並木への玄関口となる、噴水が設置された西側ロータリーには、何種類もの薔薇が植わっており、近隣の人々の憩いの場となっている。
駅舎の外壁はベージュと白のツートーンカラーで彩色され、臙脂色の屋根が駅舎の存在を際立たせている。駅舎の外壁に使われているベージュは駅周辺のテーマカラーとなっており、駅舎周辺の路面、駅前の交番、いくつかの近隣テナントビルもこの色を基調色としている。
駅周辺には駅ビルとなる東急スクエアガーデンの本館を始め、アネックス、南館、北館が分棟形式で立ち並んでいる。これらの外壁は全て田園調布駅舎の外壁と同じベージュで統一されており、屋根にも同系色やテラコッタなど数種類のトーンのYR系煉瓦が使用されている。ヨーロッパの温暖で風光明媚な地域を彷彿とさせる建物様式と、自然と調和した街並みの色が高級住宅街にふさわしい品格を醸し出している。
●マンセル値:2.5Y 8/4
●NOCS:2.5Y-3.6-3
西新宿の高層ビル街の中にあってひときわ目を惹く真っ赤な『LOVE』の文字は、この地域を彩るパブリックアートとして、多くの人々に親しまれている。数々の邦画やTVドラマにも、恋人たちの待ち合わせ場所として登場した有名スポットだ。「V」と「E」の間を体が触れることなく通り抜けられたら恋が実る、なんて都市伝説もある。
このオブジェはアメリカン・ポップアートの巨匠故ロバート・インディアナの代表作であって、美術やデザインの教科書でもたびたび題材として扱われる。
ニューヨークやフィラデルフィアなどにもこれと同様のものがあり、地域を表すランドマークとして、やはり人々に愛されているようだ。
LOVEの「O」が傾いているのには、「愛は完璧ではない――今にも転げ落ちるかのよう」という、センチメンタルなメッセージが込められている。鮮烈な赤色の間に差し込まれた緑と青は見る角度によって表情を変える。これは愛という甘さだけでなく時に苦い感情の、多面性を表現しているようにも思える。まさしく百人百様な愛の形のようではないか。
日本大学生産工学部 創生デザイン学科
石澤 恵、馬場 美帆、本田 直
●マンセル値:7R 3.3/13
●NOCS:7R-8-7