『東京の色100』006~010

006 国会議事堂の桜色

国会議事堂は、日本の立法府の最高機関であるとともに、東京を代表する観光名所のひとつである。こどもの頃、修学旅行や社会科見学で訪れた思い出のある人も多いだろう。

永田町に建つ現在の国会議事堂は、1936年(昭和11年)に帝国国会議事堂として建設された。切手や紙幣の図柄にも用いられたその外観は、国の権勢を象徴するかのような左右対照形のデザインとなっているが、外装には広島県呉市の倉橋島で産出された淡い色調の桜御影(通称「議院石」)が採用されており、威圧感を抑え、品格と華やかさを兼ね備えた印象の形成に寄与している。


東京都は、国会議事堂の象徴的な景観を保全するため、周辺後背地に立地する高層ビルの色彩を強く規制しており、その基準を「議院石」の鮮やかさである彩度3を超えないことと定めている。日本を象徴するかのような議院石の桜色よりも目立つ事なかれという明快なメッセージの込められたルールである。

 

株式会社カラープランニングセンター 田邉 学

マンセル値:9.0YR 7/3

NOCS8.75YR―3―5



007 ジブリ美術館行きバスの黄色

三鷹の森ジブリ美術館行きのバスが三鷹駅の南口から出ている。三鷹の森ジブリ美術館は、井の頭恩賜公園の中に2001年にオープンしたスタジオジブリの作品世界を体験できる美術館で、世界中から入場者が連日訪れている。入場は完全予約制で事前に入場引換券を購入する必要がある。三鷹の森ジブリ美術館行きのバスは鮮やかな黄色のバスで、車体には黄色をベースカラーとしてコウモリやバッタ、イモリ、クワガタなどが白で描かれており、「三鷹の森ジブリ美術館」と赤で表示されている。スタジオジブリによってデザインされた。バスに乗る時からスタジオジブリの作品世界に浸ることがで


きる。

 

日本色研事業株式会社 畠山富雄

マンセル値:2.5Y 8/12

NOCS2.5Y91



008 聖橋の明灰色

JRお茶の水駅に接して、神田川にかかる聖橋はその美しいアーチで知られている。

この橋は、関東大震災後の復興事業の一つとして計画され、1927年に建設された。

「聖橋」の名前は、北にある湯島聖堂と南にあるニコライ堂という、南北両岸の2つの聖堂を結ぶ橋であることから命名されたという。この時期、復興事業として、鋼鉄のアーチ構造で有名な永代橋などの隅田川にかかる橋梁も続々とつくられた。


今現在、隅田川に架かる橋のいくつかはその個性的な色で話題になっているが、この聖橋は、ありふれたコンクリートの

明るい灰色であって、決して色あいを主張する橋ではない。けれども、北岸の豊かな植生と調和して、神田川の水面にその影を落とす聖橋の姿は、せわしなく通り過ぎようとする多くの都会人の歩みを確実に止めてきただろう。環境と調和したフォルムと色による美しい景観がここにあるように思う。

 

一般財団法人日本ファッション協会 山内 誠

マンセル値:5Y7/1

NOCS5Y15



009 濡烏

東京都は、平成13年度より増えすぎたカラス対策に取り組んでいる。その結果、平成13年には36千羽だったカラスが、平成21年には19千羽に減少した。都民にとっては嫌われ者のカラスだが、その羽の色は、日本女性の理想の髪の色と言われている。

烏の羽毛は、水分によって艶を増すことで、黒い羽の上に青や緑、紫などの干渉色が現れる。これを「烏の濡れ羽色」「濡烏」などと称す。「みどりの黒髪」という表現もまた、同じ干渉色を感じさせる言葉だ。


地唄「黒髪」の歌詞、「黒髪の結ぼれたる思いには、解けて寝た夜の枕とて、独り寝る夜の仇枕」には、恋しい人に捨てられた女の情念が込められている。そんな女の情念が東京の空を舞っている。

天保年間に江戸の寄席で流行った都々逸にこんなものもある。「三千世界の烏を殺し 主と朝寝がしてみたい」

東京都はカラス対策の手を緩めていない。巣を撤去し、トラップを増設しているという。

 

有限会社シナジープランニング 坂口 昌章

マンセル値:2.5P 2/2

NOCS2.5P215



010 新緑の高尾山

都心から1時間程電車に揺られるだけの距離に、こじんまりとそびえる高尾山がある。夏であっても、登山口の駅を降りれば空気がひんやりと感じられ、よく整備された登山道を歩むにつれてさらに気温も下がり、都会の喧騒もどこ吹く風である。標高は600m程でさほど高くないのだが、樹木や草花にはバリエーションが多く、目に楽しい。年間を通じて、カシ、ブナ、ナラ、スギ、ヒノキは微妙に異なる緑のグラデーションで山全体をこんもりと覆い、季節によってモミジ、ツツジ、山桜が生き生きとした彩りを添える。たとえば、新緑のブナやカエデの葉はやや黄みがかった若葉色である。


澄んだ大気の中、陽の光を浴びて透けるように輝く葉は爽やかさに満ちている。巨大都市東京は無機質なビル群・過密人口・圧倒的なビジネススピードによって成り立っている面が強調されがちだが、高尾山や奥多摩といった自然景観が保持された地域も西方に包含しているのだ。そして、その豊かな存在によって都市と人々のストレスを緩和していると言えるだろう。

 

株式会社日本カラーデザイン研究所 稲葉

マンセル値:7GY 7.5/4.5 

  若葉色(JIS慣用色名)

NOCS7.5GY51